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12/05/04 A5 40P オフセットフルカラー 400円 主皆 最終話だけ何度もループして皆守の「じゃあな」を今度こそ止めさせようとする葉佩本
序盤抜粋サンプル
がばりと跳ね起きる。白い蛍光灯が部屋を照らしていた。狭い部屋に不似合いに積まれたダンボールの山。枕元にはH.A.N.T。たった今まで、葉佩は自室のベッドで寝ていたらしい。ここまでたどり着いた記憶はない。あの不思議な光の中で気絶でもしたのだろうか。考えながら立ち上がった葉佩は、すぐに違和感に襲われた。身体が痛くないのだ。あちこち傷だらけで、立っているだけでもつらかったはずだ。側頭部の出血などとくに酷かったのに、触ってみてもかさぶたさえない。それとも、あの光は魂の井戸のそれと同質のものなのか。 まさか何日も眠っていたのではとH.A.N.Tを立ち上げたが、推測は見事に裏切られた。何日も経っているどころではない。液晶の数字は、今日が24日の深夜―遺跡の最深部に降りるよりも前の時刻だと告げている。わけの分からないままチェックを続けたが、新しいメールは来ていなかった。それどころか、遺跡に入ってすぐに届いたメールマガジンも消えている。戦闘中に壊れて、内部のデータが巻き戻ってしまったのかもしれない。それなら辻褄は合う。 いくつもの違和感を抱えたまま、葉佩は大きく息を吐き出した。一番気がかりなのは、今日の日付などではなかった。 廊下に出ると、芯にしみる寒さに襲われた。雪でも降りそうだ、と思ってからおかしくなる。まるで先ほどの夜そのものだ。白い息をそっと吐いて、目指す部屋のドアノブを握る。ノックは要らなかった。 目的の人物は確かにそこにいた。ゆっくりとこちらへ顔を向け、曖昧に微笑む。その肌には傷一つなかった。 「甲太郎も治ったんだ?」 唐突な確認に、皆守は眉をひそめた。 「何の話だ」 「ほら、あんなに傷だらけだったのに、全部消えたでしょ。あの光のおかげかなって」 「傷だらけって……お前、もう潜って怪我して来たのか」 「いやだから全部治って、というかもうって何」 「白岐との約束もあるってのに、何やってんだよ」 「約束? あの後に?」 「お前な……!」 語気を強めた皆守は、しかし言葉を継がなかった。くしゃくしゃと髪の毛を掻き回し、大げさなため息ひとつついて、葉佩を見る。 「温室に零時。覚えてないのか」 「それ、イヴの話でしょ」 「お前、寝ぼけてるのか?」 途端に皆守は気遣わしげな目をした。 「今夜はクリスマスイヴだ」 葉佩は息を止めた。それから、弾かれたように皆守の机へ向かう。 「おい!」 制止も聞かずにPCを立ち上げ、日付を確認する。そのままインターネットにアクセスする。開いても、開いても。どのサイトも同じ日付を伝えてよこした。 「九ちゃん」 呆然とする葉佩の手から皆守がマウスを奪った。無造作に散らかされたウィンドウを閉じながら、静かに言う。 「どうしたんだ?」 「覚えてないの」 問い掛ける声はかすかに震えた。 「……大丈夫か」 「覚えてないの、甲太郎は」 「何を言っているのか知らないが」 最後のウィンドウを閉じて、皆守は葉佩を見た。 「俺には、今夜お前が怪我をした記憶はない」 葉佩は顔を歪めた。 「九ちゃん、」 「ごめん」 力なく笑って、葉佩は机から離れた。 「何でもない」 「それが何でもないって面かよ」 「本当に、何でもない」 皆守の目を見ずに言う。彼は一度口を開いて、閉じた。曖昧な笑みを浮かべたまま、葉佩は更に遠ざかった。これ以上彼の顔をまともに見ていられそうになかった。 部屋を出た葉佩は、足早に歩き出した。窓の向こうでは、いつの間にか雪が降り出していた。